2022/01/30

アルベルゴ・ディフーゾ|地域に泊まるという新しい体験

地域に泊まるという新しい体験、アルベルゴ・ディフーゾという新しい取り組みが注目を集めています。もともとは、廃村の危機に直面した地方を復興させるための取り組みとしてイタリアで生まれた考え方ですが諸外国での事例も増え続けています。近年では日本にも上陸し、アルベルゴ・ディフーゾ取り入れた自治体の取り組みが認められていることから、今後は身近な考え方になっていくかもしれません。

そこで今回は、日本にとっては新しい地方創生の在り方とも言えるアルベルゴ・ディフーゾについて詳しく解説していきます。

アルベルゴ・ディフーゾとは

聞きなじみのないアルベルゴ・ディフーゾという名前ですが、単語の意味をそれぞれ見てみると、アルベルゴ=宿ディフーゾ=分散した、という2つの意味の単語からできています。つまり、分散型の宿と訳すことができますが、分散型の宿とは一体どのようなものなのでしょうか。

アルベルゴ・ディフーゾ

アルベルゴ・ディフーゾは、町全体を宿泊施設と捉え、宿泊施設としての機能を町の各所に分散させることで人の往来を生み出した上で、その土地に根付く歴史、文化、人の営みを、観光資源化として活用することでその土地ならではの持続可能な経済を生み出そうとする考え方です。

町全体を宿と見立てる取り組み

分散型のホテルシステムにより、多くの人の流れが生まれる

アルベルゴ・ディフーゾは、小さな町全体を宿と見立てるような分散型ホテルシステムを構築する取り組みです。観光客の体験としては、宿泊のための受付や客室、レストランなど、ホテル機能が町に点在しているため、町を移動して目的の場所に行く必要があります。目的の場所に行くまでには、町を歩き、好みのお店を見つけるかも知れませんし、町の人と会い交流が生まれるかもしれません。このように、町全体に泊まる仕組みを作ることで人の流れができ、消費を促進することで町に活気が生まれます。

アルベルゴ・ディフーゾが広まったきっかけ

アルベルゴ・ディフーゾのはじまり

アルベルゴ・ディフーゾを提唱した人物として有名なのが、イタリアで長年まちづくりコンサルタントとして地方再生に尽力してきたジャンカルロ・ダッラーラ教授です。

1976年に北イタリアのフリウリ地方で発生した大地震により震災によって過疎化が進み、廃村の危機に直面しました。そこで、復興に向けて“新しいまちをつくるか?古いまちを残すか?”を検討したとき、まちに残された空き家を宿として活用し、昔ながらの街並みを保存しながら伝統集落を再生する手段として、ジャンカルロ・ダッラーラ教授によってアルベルゴ・ディフーゾが提案されたのが始まりです。

アルベルゴ・ディフーゾの広まり

1995年に初のアルベルゴ・ディフーゾが生まれ、2006年には協会が誕生しました。イタリアでは現在、100前後のアルベルゴ・ディフーゾが生まれています。そうしたアルベルゴ・ディフーゾの動きはイタリア国内だけに収まらず、クロアチア、スペインなどの欧州各国、そして日本など、過疎が進む小さな田舎町に広まり、アルベルゴ・ディフーゾの認定登録を受ける地域が現れています。

アルベルゴ・ディフーゾとして正式に認定を受け、協会に登録をされることで初めてアルベルゴ・ディフーゾと名乗ることができます。正式登録には様々な審査が行われ、協会の委員が実際に訪問しその真正が認定される必要があり、正式登録に至るまでには1年近くかかるそうです。そして、正式登録後も各アルベルゴ・ディフーゾが機能しているかのチェックが行われ、会合やセミナーなどを通してアルベルゴ・ディフーゾの質の維持に取り組んでいます。

アルベルゴ・ディフーゾの魅力

アルベルゴ・ディフーゾを提唱したダッラーラ教授は、アルベルゴ・ディフーゾの本質はすべてが持続可能であるというところだと言います。小さな田舎町の過疎化はイタリアだけに留まらず、今や世界各地で同時進行している問題ですが、これを食い止める鍵は、それぞれの土地で“持続可能な経済”を生み出すことにあると主張します。

アルベルゴ・ディフーゾでは、宿も町並みも、全てもともとそこにあったものを再利用するというのが原則です。その土地に根付く歴史、文化、人の営みを、観光資源化することでそれぞれの土地の経済を生み出す必要があります。

限られたエリアの中で人の流れができることは、過疎化に悩んでいた住民達にとっては歓迎されることであるため、住民達も見知らぬ宿泊客を温かく受け入れます。すると、宿泊客は初めて訪れた場所でも居心地の良さを感じ、また戻って来たくなる、という好循環が生まれています。

地域にとっての魅力

回遊性を高めることで、宿泊した観光客たちがまちのなかで移動する機会を作ります。すると、観光客がまちと触れる時間が増え、まちのいたるところで消費が促進されることで、まちに活力をもたらす地域経済が生まれます。

観光客にとっての魅力

宿も町並みも、全てもともとそこにあったものを再利用するというアルベルゴ・ディフーゾの原則によって、観光客はその土地の歴史文化や風情が残るまちに泊まることができる。それは、その土地でしか得られない体験とも言うことができます。

また、まち全体宿泊施設と捉え回遊性の高める分散型ホテルでは、観光客と住民とのコミュニケーションを生み、まちの共有スペースでは観光客同士の交流も生まれます。その程よい距離感がアルベルゴ・ディフーゾの人気の理由のひとつになっています。

江戸時代の宿場町を活用したアルベルゴ・ディフーゾ

旧山陽道矢掛宿には江戸時代の町並みが保存されている

日本でもアルベルゴ・ディフーゾをいち早く取り入れ、「地域に泊まる体験」ができる場所があります。日本で初めてのアルベルゴ・ディフーゾタウンとして認定を受けた岡山県矢掛町のケースを紹介します。

岡山県矢掛町

岡山県矢掛町は、江戸時代は山陽道の宿場町であり、西国や四国の武士が参勤交代で行き交う交通の要衝でした。江戸時代には宿場町として栄えた歴史がありながら、宿が今に残っておらずそこに観光客をどう呼び込むか検討し、古民家の特徴を活かした宿泊施設の整備に着手したのが矢掛町のアルベルゴ・ディフーゾの始まりです。こうして古民家再生による宿泊施設“矢掛屋”が平成27年にオープンしました。

岡山県矢掛町の町並み

山陽道宿場街という文化的な背景と伝承されてきた文化があり、それを核にした官民一体の街づくりが行われてきたことが、アルベルゴ・ディフーゾ協会の日本認定第一号のポイントでした。古民家や古い町並みを活かすことに加え、官民連携による町おこしの運営体制により持続可能な地域経済を生み出す賑わいを創出しています。

アルベルゴ・ディフーゾ以外でも進む地方の取り組み

まちの魅力を保存しながら新しい価値を付加し、まちの活気につながるような町おこしの例として、古民家リノベーションによる町おこしも注目を集めています。新築で建て直すのではなく、あえて古民家リノベーションを行うことで日本の伝統的な家屋の温もりや懐かしさを残すことができ、そこに現代的なライフスタイルや価値観、トレンドを盛り込みオシャレな間取りを実現することもできます。

こちらの記事で詳しく説明しています。▶古民家が人気!カフェやレンタルスペースで地方創生

まとめ

アルベルゴ・ディフーゾは、小さな町全体を宿と見立てるような分散型ホテルシステムを構築する取り組みです。町並みや歴史文化、もともとそこにあったものを観光資源として再利用し、観光客の回遊性を高めることで、それぞれの土地の魅力を活かした“持続可能な経済”を生み出す取り組みです。

イタリアから生まれたアルベルゴ・ディフーゾは、過疎化が進む諸外国の田舎町にも広まり、日本でも町おこしの施策として取り入れる自治体があります。そうした自治体の成功事例などにより、今後取り組み事例が増えていけば、より身近な考え方になっていくかもしれません。

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