2021/11/20

岐阜の秘境で新たな出会い – 越波集落を取材しました

historicaの安藤です!今回は岐阜県本巣市の根尾地域と呼ばれる場所にある「越波集落」に行ってきました。根尾地域は岐阜県の中でも山深い辺境にあたる場所ですが、そんな根尾の中でもさらに奥地にあるこの集落はまさに秘境と呼ぶに相応しいでしょう。

この集落には既に定住者はおらず、春から秋にかけての期間に時折集落へ訪れる家が何世帯かあるといった状態です。この集落のように定住者が存在せず、集落としての機能を維持できない集落を、区分上は廃村と呼ぶわけですが、通常イメージされるような廃村とは違い、人が訪れる頻度も高く、村に流れる川では夏には子供たちの遊び場になるなど、今でも人の往来や交流が盛んに行われている素敵な場所でした。

今回我々は取材のために2回ほどこの集落を訪れましたが、行くたびに新たな出会いがあり、そしてこの美しい集落の風景にすっかり魅了されてしまいました。そんな越波集落の取材の様子を今回は紹介していきたいと思います。

越波集落へのアクセス

まずはこの辺境の集落にどのようにアクセスすれば良いのかご説明していきます。辺境とは言っても、車もしくはバイクがあれば比較的スムーズにたどり着ける部類の集落ではありますので、もし訪れる予定がある方は参考にしてみてください。

最寄駅は樽見駅、だがそこからの道のりも長い

越波集落へ訪れるには車かバイクは必須と言っても良いでしょう。というのもこの集落へアクセスするための公共交通機関は存在せず、最寄り駅である樽見駅からも20km以上離れているためです。取材へ向かう道中、ロードバイクで移動する方を見かけましたが本当に尊敬します・・・。我々はもちろん、車で移動しました。

樽見鉄道樽見線の終点、樽見駅

因みに樽見駅にも少し立ち寄ってみましたが、ローカル線なので当然のように無人駅でした。しかし駅舎はなかなか独創的で綺麗な造りをしており、ローカル駅ならではのエモーショナルな雰囲気を味わうことができました。

ローカル駅ならではの雰囲気
独創的な造りの駅舎

冬季は道が完全に封鎖されるためアクセスは不可能に

越波に訪れる際に注意したいのが、冬季は集落へのアクセスに通行必須な「折越林道」が通行止めとなり、一切アクセスができなくなるということです。通行止めの期間は毎年異なるようですが、概ね12月中旬~4月中旬頃とのこと。冬季以外にも落石や土砂崩れなどで、道が寸断されることもしばしばあるようなので、集落に訪れる際は事前に道路の状況を市役所などで確認しておくと良いかと思います。

道中の道路情報でも道路の状況が確認できる

道中にはアユ料理を扱ったお店が多数

根尾地域をドライブしていると鮎料理を扱ったお店が至る所にあることに気が付きます。清流に恵まれた根尾地域では鮎がよく捕れることでも有名みたいです。取材班もせっかくなので、夕食で立ち寄ることに。鮎料理と言えば塩焼きぐらいしか思い浮かばなかったのですが、立ち寄ったお店ではあの手この手で鮎を調理したお料理がたくさん。私も初めて見るものばかりで楽しめました。根尾地域のグルメに関しては別のコラムで紹介してますので、是非チェックしてみてください。

アユ料理はどれも美味でした

県道255号から折越林道へ、ここから険しい山道が続く

県道255号はきちんと整備されており道幅も広いため楽々通過できますが、折越林道からは少し道が険しくなります。道路には倒木や落石なども見られたので、十分注意して進んで行く必要があります。タイミングによっては大型の工事車両とも頻繁にすれ違うこともありますので、事故にならないよう安全運転で行きましょう。

樹齢350年!大栃の木

折越林道をしばらく進むと道端に気になる標識とともに、ひと際異彩を放つ大木を発見。どうやらこれは栃の木の大木のようで、説明によると樹齢350年にも及ぶのだとか。こういった山間地域では平気で樹齢数百年越えの大木と遭遇するので段々と新鮮味も薄れがちですが、それでもその迫力には圧倒されてしまいますね。

見るからに歴史を重ねてそうな栃の木

根尾西谷川の支流に沿って進む

さらに進んで行くと美しい清流が現れます。これは根尾地域の西側を流れる「根尾西川」の支流で、越波集落はこの川の恵みを受けて発展していった集落とも言えるでしょう。この根尾西川と地域の東側を流れる根尾東川が樽見地区で合流して「根尾川」となります。川が見えてくれば集落はもうすぐそこ、ひたすらこの川に沿って進むだけで辿り着けます。

集落に近づくと案内版が現れる
美しい清流に沿って林道を走る

ようやく越波集落へ到着、探索開始

山に囲まれ、自然に癒される集落の風景

険しい林道を1時間以上進みようやく集落へと辿り着きました。初めて集落を見た印象は、本当に廃村なのか?と思わせられるほど綺麗な景色が広がっていました。集落は各所管理が行き届いているようで、現在でも元住民の方々が頻繁に訪れては手入れを行っているのだとか。実際に我々も何名かの方とお会いし、貴重なお話を聞く機会に恵まれました。

集落に沿って流れる清流に見惚れる

この集落の最大の特徴としてはやはり集落を流れる清流です。水は驚くほど澄んでおり、様々な生物が生息している様子が見て取れました。かつてこの川は越波集落の子供たちの絶好の遊び場だったようで、家の目の前にある川ということで通称「前川」呼ばれ住民に親しまれたそうです。住民の方の話によると今でも夏になると、親子連れが遥々訪れては川遊びをしているのだとか。廃村となった後も時代を超えて今なお愛され続ける故郷、それが越波集落なのだと実感したエピソードです。

集落を流れる美しい清流
水も驚くほど澄んでいる

越波集落の通信状況

集落を散策していると気になる看板を発見しました。看板には「携帯電話使えます(ソフトバンク)」の文字が。因みに集落の掲示板にも同じことが書かれていました。私のスマホはソフトバンク系列のLINEMOだったので試しに見てみると確かに繋がる。ただし3G・・・。しかし経験上、こういった山間集落でスマホの電波が通じているのは奇跡に近いので大変ありがたいサプライズでした。定住者はいないとはいえ頻繁に人は訪れるため、こういった対策は今でも必要なのでしょう。通信環境を整備していただいた方々には感謝ですね。

携帯が使用できること伝える看板(ただしソフトバンクのみ)

かつて学校だった場所は集落の集会所兼、宿泊施設に

ほどなくするとひと際広い敷地の施設が目に飛び込んできました。「越波村民の館」と呼ばれるその建物はもともとは学校の校舎だったようです。廃校となった後にNPO団体がリニューアルしたようで、現在は元住民の交流の場や宿泊用の施設として利用されているのだそう。地元の方の話では元は完全な二階建ての校舎だったそうです。役目を終えた施設にこうして再び息を吹き込む試みは素晴らしいと感じました。

旧校舎は近年になって建て直された

住民の方との出会い、もちろんお話を伺うことに

さらに進んで行くと住民の方と思しき方が何やら作業をしているようでした。これはチャンスとばかりに撮影の許可を頂きつつお話を聞かせて頂くことに。この方は越波の出身で現在は街で暮らしているものの、春から秋にかけての期間は毎週1度はここを訪れるのだとか。以下にお聞きしたお話を掻い摘んでご紹介します。

取材班:この集落には多い時で何人ぐらいの方がいたんでしょうか?

住民の方:だいぶおったよ。一番昔はね、100人ぐらいおったんじゃないかなあ。

取材班:100人ですか!この範囲に100人だと結構賑やかですね。

住民の方:お寺も部落で守りしとるで、大昔の部落やでお寺も立派だよ。

取材班:すごく大きいお寺ですよね。歴史のある集落なんですね。

住民の方:もっと戸数も多かったんもん。隣にも家があったしね。それからそこの上にも一軒あったね。

取材班:やはり家は自然に崩れてしまうんでしょうか?それか取り壊されるのでしょうか?

住民の方:取り壊しする人もおるし、やれん人は放っておくわ。

取材班:なるほど、自然に任せるんですね。

住民の方: あそこの家ももう壊れかけとるでしょう。もうあそこも誰も来おへん。そういう家がだいぶある。

取材班:代が変わっちゃうと段々そうなってしまうんですね・・・。

取材班:ところで僕たちみたいな人はよく来るんでしょうか?

住民の方:来るよ 笑

取材班:やっぱり来るんですね 笑 ではお父さんも慣れてらっしゃいますね。

住民の方:お祭りの時もよく来るね。

取材班:あーお祭りですか!お祭りは何月頃にやっているんですか?

住民の方:お祭りはお盆と春祭りと秋祭りと3つあるよ。ドローン持ってきて飛ばしてよくやっとるよ。

取材班:ドローンまで飛ばして撮影するんですね!お祭りはたくさん人が集まるんですか?

住民の方:結構来るよ。あそこ(旧校舎)がNPOの建物やで。

取材班:なるほど、NPOが入っているんですね。

取材班:しかし、なかなか代々の土地を受け継いでいくのも大変ですよね。

住民の方:そうやね。

取材班:それで放置されてしまう家があってもしょうがないんでしょうか。

住民の方:もうしょうがない。もう代が変わってよ、壊してくれ言ってもなかなかやってくれへんしさ。

取材班:そうですよね・・・。

住民の方:この前お寺の下の一軒だけは部落の人で壊した。道路端やもんで危ないやろ。

取材班:費用とかは部落負担なんですか?

住民の方:もうボランティアやね。皆集まってくれるで。でもそれも段々減ってくる。

取材班:そうかー。大変な仕事ですよね・・・。

越波集落はまだまだ元住民の寄り合いが活発で、定期的に集落の維持に努めていること。しかし徐々に代替わりをしていって段々その人数も減ってきていることなど、こういった廃村集落が抱える悩みについても聞かせて頂きました。元住民の子供世代は、集落で生活したことがない場合が多いので、あまり土地に愛着を持たず放置されている場所が多くあるのだとか。集落の寄り合いも徐々に高齢化が進み、その人数も減り続ける一方。近い将来この土地を気に掛ける世代はいなくなり、完全に消滅してしまう。そんな状況を住民の方は「仕方がない」と話しますが、その言葉には悲しみも含まれているように感じました。

そしてこれは余談ですが、なんとこの方、現在は私の実家から目と鼻の先にお住まいなことが発覚し、地元トークに花が咲いてしましました。こんな辺境の地でまさかご近所さんに出会うことになるとは、偶然とは言え何かこの集落には運命的なものを感じてしまいました。

貴重な食材、エゴマの栽培を見学させていただく

エゴマは縄文時代より食されてきた形跡が見つかっているそうで、鎌倉時代には主に搾油用の作物として広く栽培されたのだとか。現在ではなかなかの高級食材となっており、ちょっとした袋詰めで500円以上はするそう。香りが特徴的なことから薬味としても利用されるそうで、実際に匂いを嗅がせてもらいましたが、確かに香辛料のような独特な香りがしました。岐阜県の特に飛騨地方では食用としても親しまれているそうで、エゴマを炒って味噌と混ぜて作る「エゴマ味噌」などがあるそうです。

栽培したばかりのエゴマ
荒く実だけを取り出した状態

また、代々受け継がれてきたという脱穀機も見せて頂きました。数十年経った今も現役で活躍していることに感動します。構造も教えて頂きましたが風を起こして余分なゴミを取り除いていくようです。昔の人の知恵は凄いですね。

エゴマの脱穀機、木造で趣のある機械だ

越波集落の信仰が集まる場所へ

集落の終点付近にはこの集落のシンボルとも言えそうな立派なお寺が姿を現します。このお寺は「願養寺」というそうで、小規模な集落には不釣り合いなほど堂々たる威容を誇っています。寺社仏閣好きの方であればこのお寺を見るだけでもここに来る価値はあるでしょう。

驚くほど立派なお寺「願養寺」

立派な鐘がシンボルの願養寺

寺の境内にはこれまた立派な鐘が設置されていました。「和願の鐘」と呼ばれるこの鐘は説明書きによると三代目に当たるそうで、2011年に多くの人の支援により再興されたものだそうです。「和願」という名も再興のタイミングで名づけられたようで「和すなわち、平和・心のなごみ・村の団結・愛情・結願すなわち、ねがい、願望、思いを叶えることを意味し、名付けられた」とあります。

規模が大きいだけに維持管理が大変そうだ
お寺のシンボルでもある「和願の鐘」
かなり立派な鐘楼だ

この鐘はいつでも、誰でも突いても良いそうで、せっかくなので取材班も試しに1突きさせてもらうことに。突いた瞬間集落に響き渡る鐘の音が自然に溶け込んでいくようで、何ともこころ洗われる気持ちになりました。鐘を突く機会というのもあまりないので貴重な体験をさせてもらいました。

鐘は突き放題、訪れた際は是非

大杉のご神木が聳え立つ八幡神社

越波集落ではお寺と神社が一続きの境内に並ぶように配置されていました。越波の氏神は八幡神で、規模はそこまで大きくはないものの良く管理されており、大自然に囲まれているため、神社特有の神聖な雰囲気を存分に味わうことができます。ひと際目を引くのがお社の裏手に聳え立つ杉の大木で、これまた樹齢300年だそうです。このご神木は村指定の天然記念物にも指定されているようです。

寺の隣に位置する八幡神社
霊験あらかたな雰囲気だ
天然記念物でもあるご神木の大杉

イチョウの木に伝わる伝承と木の精おいちょう様

境内には他にイチョウの大木もあり、これは本巣市指定の天然記念物となっています。越波は天然記念物の宝庫ですね。そしてこのイチョウの木には面白い言い伝えがあり、木の太枝にあるコブが母親の乳房のような形をしていることから、母乳の出ない人がそのコブを削り煎じて飲むとなんと母乳が出るようになるのだとか!とまあ昔ながらの言い伝えではありますが、食料の確保もままならない時代においては、母親の母乳が出ないことは赤ん坊にとっては死活問題。このイチョウの大木は、ここで暮らす人々の心の拠り所となったのでしょう。

さらによーく観察すると木の上の方においちょう様と呼ばれる神様がいらっしゃいました。説明には縁結びのおいちょう様とあります。恐らくこのイチョウの大木の守り神なのでしょう。そんな遊び心も垣間見える何だかほっこりする出来事でした。

木に鎮座するおいちょう様
乳房に例えられるコブ

もっと知りたい越波集落

ここからは越波集落にまつわるこぼれ話を紹介していきます。まだまだこの集落には素敵な魅力がありますが、その中からいくつかピックアップしてみました。

「越波」の由来

神社の境内にある説明書きによると、もともとこの集落は越浪(こしなみ)と呼ばれていましたが、1287年に起きた大地震がきっかけで現在の越波と呼ばれるようになったそうです。以下はその説明文です。

「越浪(こしなみ)は、永く栄えた村名である。すなわち、年号は定かではないが、頭矢村から紙屋村を経て、674年に越波村と成る。六百十余年続いた村名が1287年に現在の越波村(夏、竜神が願養寺の経典を望み、天地を振動させ、渓水を噴出し、その波により、まさに人家標没せんとしたとき白髪の老翁が経典を水中に投じたところ、水が減じ村民は難を免れた。以後、越波村と称した)と成る。」

何やら神話チックに書かれていますが、恐らく大地震で起きた土砂崩れが村を逸れていったことから名づけられたということでしょう。真偽の程は定かではありませんが、面白いエピソードなので紹介してみました。

集落名の由来は境内に掲示されている

ホラー映画のロケ地になったことも

越波集落では2年ほど前にホラー映画「犬鳴村」のロケ地となったことでも有名です。今回の取材で何名かの住民のお話を聞かせて頂いたのですが、皆さんそのことについて楽しそうに話してくれました。撮影は5日程度行われ、旧校舎を宿泊施設として利用していたそうです。

住民の方によると「柿木に犬を吊るして腹を裂いてたよ」そうです・・・笑 もちろん本物の犬ではないでしょうが、こんなのどかな集落のエピソードとは思えない話が飛び出してきたので、思わず笑ってしまいました。また、撮影の際にはまだ発表前だったこともあり、集落全体にはかん口令が敷かれたのだとか。私はホラー映画をあまり観ないので未視聴ですが、この集落を訪れた後に観るとまた違った楽しみ方ができそうですね。

蛍鑑賞イベント

住民の方によると越波の近くでは蛍鑑賞の絶景スポットがあるらしく、毎年6月下旬ごろにNPOの主催で鑑賞イベントが行われているそうです。少し調べてみましたが、残念ながら一般には情報が公開されていない様子で、恐らく地元の方々のみで行われるイベントかと思われますが、誰でも参加は自由だよと教えていただきました。我々も来年タイミングが合えば参加してみたいと思います。

越波集落についてまとめ

今回は岐阜県本巣市根尾地域にある越波集落についてご紹介しました。我々は普段、市街地で暮らしている中で毎日、何百何千という人とすれ違っているはずですが、実際に交流を持つことはありません。しかし、こういった人の殆どいない場所で、たまたま出会った人々と他愛のない話で笑いあうことができるのが、ふと不思議に思えました。こういった何気ない人との交流こそ、このような集落の魅力と本質であり、そして現代社会が失いつつあるものでもあるのだなと感じました。

越波集落は我々が今まで訪れた廃村の中でも特に素晴らしいロケーションと、何より未だに元住民の方々を始め多くの人に愛されているのが感じられる素敵な場所でした。残念ながら冬季はアクセスすることができませんが、また来年の雪解けの時期にまた訪れてみたいと思います。

また、この集落と関連性の深い大河原集落についても別の記事でまとめていますので、気になる方は是非そちらもチェックしてみて下さい。では、また次回のレポートでお会いしましょう!

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